nekoyanagi0777’s diary

僕の/私の 脳内メモリー

metamessage

先生がホワイトボードを見ながら言った。

 

"はい、道徳模擬授業アンケート出す方は回収しますー"

 

"模擬授業かぁ、僕はやらないなぁ、任意だし。"

みんながスタスタと帰る中、友達と僕も帰ろうとすると先生はホワイトボードのその文字を赤のペンで放射線状に強調し始め、それに「ね、まだ待ってますよ」と言葉を添えた。

 

なんだか無性にその言葉が胸をキュッっとしたが、「やりません」、くすくす友達と笑いながら言った。

「ね、これメタメッセージ。メッセージを超えるものが、ね......」いちいち言葉選びが先生っぽい。模擬授業をして欲しいならストレートに言えば良いのに、素直じゃないなぁ。いや、そういうわけでは絶対無い、絶対違うのだが、ぐだぐだ"メタメッセージ"を説明する先生に僕は、くすっと笑いながら素直になっていいんですよみたいな意味を孕み、言ってしまった。

「照れ隠しですか」

先生は、当然そんなことはないので、ぽかんとした顔で聞き返す。

「え?なんて言いました?」

 

いやただ、"照れてるんですね"、って、言っただけですよ。

 

言っても良かったが、なんでもないですと言葉を濁した。だって照れ隠しなはず無い、obviously。

 

 

 

 

 

僕とあの人におんなじものなんて無いんだよな。面白いと思うことも違うし、楽しいと感じることも違うんだよな、やることのスケールも、できることの範囲も違う。甘酸っぱいだなんて愚か、酸っぱすぎる、酸っぱすぎるぜ。

僕は髪を切ってイメチェンをして、良さげな服を着て、、、。こんな子供騙しで大人が騙されるわけもなく。まあ別に騙そうだなんて思っちゃいないんだけど。僕はあの人に特別なものは何も求めていない。先生の見てる世界を少しだけでも僕も見られたら、勉学意欲の根源の一つになってくれたら、それで尚僕が太宰治の言う「一つかみの砂金」を手に入れることができたのならば、どれほど良いだろう、なんと素晴らしいことだろう。あの人が面白いことをするたびにそれを友達と笑い合うのが、僕は楽しいわけで。それ以上でもそれ以下でも無い。

あるべきものはあるべきままでいたほうが良いということを、今の僕は知っている。

ただただ好きが先行する中学時代より幾分か頭は良くなった。

 

 

 

 

 

ある日僕は変な夢を見る。あの人が特別に僕にだけ講義をしてくれる、とまぁ漫画でありそうな、それがまさか夢に出てくるとは自分の夢ながら少し寒気を感じるシチュエーションだが、夢の中での僕は幸せだったかも知れない。

うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てうものは たのみそめてき

小野小町は、夢に思い人が出るのはその人が自分のことを思ってくれているからだと言ったっけ。

いやそんなはずないんだよね、obviously。

 

 

 

 

 

先生が好むと思って、僕たちが贈呈したアスパラガスの形をしたペンがある。こんなことをする学生は多分、物好きな僕らくらいしかいない。是非使って下さいとは言ったものの、授業内で使うはずがないことは端から分かっていた。なのにも関わらず、ある日の授業後、僕はサラッと聞いてしまった。あるいはこれを何かの"メタメッセージ"としたかったのかもしれない。

「先生アスパラガス使ってくれないんですね」

どんな顔と口調で言ったんだっけ、たしか不服そうな顔と茶化すような口調で、恥ずかしくて覚えていない、というより思い出したくない、の方が正しいか。先生は予想通りの、模範的な返答をした。

「いやお守り的に持ってますよ。ほら。...わたしにも考えがあるんです!ね、正に講義内でやった心理的サポート、これは心理的サポートです。」

「....なるほど、あぁ分かりますよ、とっても」

講義で習った単語を使い、これまたサラッと言ったあの人の言葉の意味を、しっかりと講義を受けている僕は即座に感じ取った。心理的サポートな、なるほど、それはただの"心理的サポート"ではなく。あの人はしっかりと心得ている、当たり前の先生としての立場を。それを守ることのできない人がいる中、その意識は至極真っ当で素晴らしい。僕は急に恥ずかしくなった。あの人は、もう早くから僕のジレンマを勘ぐっていたのではないだろうか。しかしながら逆に、あの人が模範的ではなく問題含みな返答をしていたら、それはそれで僕は一種の失望をするような気もする。

ああでもないこうでもない定まらないことを言ってるが、自分でも複雑なのだ。

だが先生の姿勢は大変素晴らしいことだけは分かる、自分の私的な気持ちは置いておいて。

学生の積極的な授業の質問により感化される先生と、先生の世界を少しでも垣間見ようともがく学生。

そしてその感化されている事実を文明の利器で呟いてしまうかわいさ。

ベローチェでペスタロったり、コンドルセったり、ルソったりしてる僕。

今までこんなに一生懸命になったことはないです、感謝してます。

恩に着ます。

だから明日もあの駅のベローチェ、窓際の右辺り、2つ椅子のある丸テーブル、若しくは左のカウンター席で午後6時30分くらいにペスタロります、あの駅のベローチェです

メタメッセージ?いやそんなに勘ぐらないで下さい。