「あぁどうも」
マックの前で出会った。
"今日会えるかもしれない"という希望を持つのを諦めた時に出会えるこの喜び。
「あぁそういや僕もね、影響を受けてヘドバンを買ったんですよ」
「いや、この子がやってるのはヘアバンドですよ笑笑」
「いや、でも僕はヘドバンを買ったんです、、いやぁ、でもこれを付けて授業は出来ないなぁと思ったりしましたね笑笑」
私はあなたから影響を与えられっぱなしだったので、ヘドバンでもヘアバンでも、今度は影響を与えられたというのが、嘘であっても嬉しかったのだ。
特に言葉は発しなかったですけど喜んでたんですよ私。
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最近サックスの先生と色んな話をすることが増えたな、仲良くなれたかな、と感じていたある日の副科サックスレッスン。
先生は話している最中にボソッと言った。
「でもねぇ、教師というのは切ない仕事ですよ」
切ない仕事。わかる気がする。
「教えたらすぐ教え子は出てっちゃうんですから。在学期間が過ぎたらもう関わらなくなるんですよ急に。だからニュースでたまにみる生徒と良い関係になっただのってのは分かる気がしますね。これは仕事、って割り切れてしまうのもなんだかなぁと思う時があります」
先生という立場の人だけがそういう思いをしていると思われてはいけない。
生徒や学生もそうだ。
私だって切ない。
いつも私にしてくれる色々は全て仕事であり、その中に私的なものは一切なく、大勢いる学生のためにしてくれているだけのことなのだと毎回、毎回、思い改めなければいけない。
尊敬で留めておくしか、今は出来ない。
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歳というのは残酷だ。
立場というのも残酷。
あるいは今の時代の流れも。
キャリアセンターに相談したいことが少しだけあって、でも予約ができない状態だった。
だめもとでキャリアセンターに行った。
「予約してないんですけどいいですか、、。」
インターンシップについて相談した。
話して、答えてくれた、ひと段落した、もう帰っても良い。
そういえば髪を切ったって話もしたかったんだ。
「髪切ったんです」
「ぅおぉ。」
なんだその反応は、というか私を見つけた時に気づいて話してくれたら良かったのでは、話してる最中に私の名前は迷わずさらっと声に出してくれたのに、と図々しく思ってしまった。
「良い感じですか」
「あぁ、良いんじゃないですか?いや、人と接する時は髪型に言及しないようにしてるんだよ、ほらセクハラとかあるから、特に学生さんにはねえ」
「あ、、、良い心がけ、、ですね」
「まぁ暑くなってきたしねぇ」
暑くなってきた?あぁ、それは最近の天気についてか。
「、、、そうです、夏になるんで」
「そうねぇ、なんかあったわけじゃ無いでしょう?」
この質問は仕事。
「失恋してないっす」
わらわら、と話が終わってちゃんちゃんだった。
社会だ。
社会人。
これが社会、今の時代。
学生の髪型に言及することすらもひやひやしなくてはいけないこの時代。
ハラスメントで困ってる人が実際にいるから、だから気をつけなければいけないなと思うのはそうなんだが。
そして相談者の学生に何かあったら話を聞いてあげる、これは気持ちじゃなくて仕事。
切ない。
これもなんか切ない。
自分のフィルターを通すと全てが白黒にしなくてはいけないと思ってか、どちらか一方しか考えられない。
街で会って自分が悲しそうにしててもそこは仕事ではないから、とかネガティブに考えてしまう。
じゃあ家族で起こる偏愛はどう説明するの?とか言われれば弱い。
逆に仕事が気持ち100%だったらどう?って言われたらそれはそれでまぁそうだけど。
ただ、歳や立場が同じだったら言えた言葉も、持てた気持ちも、違うと途端に全て消させるような感じが少し。
まぁ自分のもやもやは全てそこに行き着く気がしてる。
あ、でも世の中には白黒で言えないことがあってもいいんじゃないってそんな気持ちも。
立場で言えないことがあるのならば、それが取り払われた時に言えば良い。
特別扱いをしてはいけない関係ならば、日常扱いをすることができる関係になれば良い。
これらの考えで出てくるのが結婚なのかもしれない。
そしてそれらがやっぱり二人の前に立ちはだかる何かの壁で上手くいかなかった場合に、心中なるものが出てきてしまうんじゃ無いだろうか。
結婚についてここで私の天邪鬼な性格が出る。
特別扱いが出来ない関係だからこそ良いという感覚もあるのは事実なのだ。
もし特別が日常になってしまったら、好きだよ、素敵だねといつでも言っていい状況に仮になったら、きっと違うんだろうなぁ。
自分はややもするとその人を手に入れたいんじゃなく、その人を手に入れたいと思うこの気持ちに味をしめてしまってるのではないだろうか。
なんだか切ないなと思いながらピアノを練習する。
染み渡る何かを感じた、あこんな音で弾きたい、ぽとぽとぽんぽんくるくる、そんな音で弾きたいと思った。
弾きたい、弾きたい、ってなんだか久しぶりな気がして。
そういえば昔は自分の出来事と重ね合わせて弾いていたりしたっけ。
そんな要素があってもいいんじゃないか、悲しい曲はその気持ちにならないと弾けない。
しかしその気持ちになるというのは想像だけでぱっとできるとは言い難い。
ある程度その状況を味わっていた方がやりやすい。
ひょんなことから昔の感覚を少し取り戻した。
そして新しいことも。
ここはもっとこうなんだよな、、という感覚が芽生えた。
ここはもっとこう、この意識は必ず大事なのだと思う。
自分が物語をこだわって書き留めるように、追究できるはずだ。
次の日だった。
また聞きたいことが出てきてしまった。
インターンシップの説明会を応募しちゃったよ!と話しに行きたかった。期限が迫ってる、金曜は授業で個別相談の予約ができない、予約なしで行くしか無いと思い、朝尋ねた。
「お、ついにだねぇ。あなたの場合は現場体験だろうなぁと思う。分からないから迷ってるだけだよ。色々体験したら自分で色々感じ取るんじゃ無いかなぁ」
これで色々な経験をしようと改めて思えた。
安心する、よし、そしたらイングリッシュクリニックの準備でもしようかな。
「、、、髪切りましたねぇ」
「.....?!、、、髪切りました、、」
「ふふふ、わざと言いました」
息で曇る眼鏡、目を違うところへやって言った。
突然言われたからびっくりしたけど、これだ、これなのだ。
これで良いんだよ、少なくとも私に対しては是非こうであってほしい。
言い直してくれて嬉しい。
「また突然すみません、ありがとうございました」
「全然、どんどん突然来て下さい」
もう、るんるんイングリッシュだった。
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こっちから行こうかな、会えるかもしれないなと思って違う道を選んだ。
4階。
あ、いた、いつもは意図して会えないことが多いのに、必然に出会ってしまった。
「どうもですー、、、」
「あーこんにちはー」
すれ違った瞬間、何か、むむ、みたいな動きを感じたので振り返った。
「、、、なんか、なんですか」
何かあるのかなぁと思って。
「あ、いや、、、来てたよね、、、?」
「、、、バレました?」
ばれてしまってたかぁ。
「アンケートを見てたら見覚えのあるIDがあったんで、、、あなただけですよ厳しい意見を書いてたのは笑 良かったです」
恥ずかしいです、アンケート見ると思ってなかったんで。
別れを言おうとした時、忘れそうなことを思い出した。
「あ、、髪切ったんですよ、、!」
「あぁ、、ははは」
「、、、はははじゃないですよ!」
「いやいや、、、含蓄のある笑顔をしました、、」
含蓄。
1. 中に含み持つこと。 2. 表現で、うちに深い意味がこめられていること。
...グレーゾーンを突くのが上手だ。
いつも上手だ。
私ももっと上のグレーゾーニストを目指すため努力をしなければ、なんて。
「じゃあ、、どうも」
「、、、っ切りましたね、、」
回れ右をした瞬間、かすかに聞こえたそれに反応できなかった。
そして今日は思わぬところでまた出会った。
「髪の毛ね、髪の毛、、」
グレーを攻めてきている。
「いい感じですか!」
「いい感じ、いい感じねぇ、、ははは」
含蓄のある笑いだと思いたい。
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私がエレベーターを待っていたら、先生に会った。
「おーこんにちはー、いやー今あなたが行くべきセミナーをこの方と企画してるんですよー」
「あぁどうも」
「あ、この子は優秀な子で....」
「いつもその話してくれますよね」
飛び上がる気持ちを堪えて、クールに、さらっと、にこっと笑った。
「あれ、キャリアって担当でしたっけ先生」
「いやそれがね、今年からキャリア副長になったんだよー」
「仕事が増えましたね」
太陽がさんさんに光ってた。
良い日、良い日だ、と噛み締めるように青空を見上げて生きる喜びを感じた。
----キャリアを考えるって、別に就職先を考えるんじゃ無くて、生き方を考えるんだなぁ みつを
詠める気がした。
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今日は出来ない。
もうどんなに練習しても先に進まない。
ずっとここ2時間足踏みだ。
もうやめよう、おやつタイムをして帰ろう。
友達を誘った。
きっと唐揚げ棒は私の4年間を語る上での一つの材料になるだろう、と思うくらい食べている。
私の40%は唐揚げ棒で出来ているんだな。
コーヒーを飲ませてくれ。
いつもは緑茶と唐揚げ棒で帰るけど、今日はなんだか無理だった、コーヒーが必要だ。
コーヒー美味しい。
友達が会釈をした。
もしかして。
あ、先生だ。
出来るだけ喜ばないで会釈する。
あちらはなんだか元気がなさそうだ、話しかけてこない。
今日は会えたからノルマ達成としよう。
と思っていたらちょっとするとスタスタとこちらに戻ってきた。
「寝袋ありますよ」
違う、それはコントラバスの抜け殻、カバーだ。
さっきはポピュラーの輩がいっぱいいたから話しかけてこなかったんじゃないか、と彼らがいなくなって静まり返るこのフロアを感じて思った。
先生には先生なりに話しかけやすいタイミングがあるんだな。
「この前のキャリアの企画、あれ教職の授業があっていけないでしょう、だから日にちずらしましたよ」
それから始まった話。
デューイ学会の話、この前参加した東大の哲学シンポジウムのアンケートがいつもの授業のコメントと違って冷静に客観的に書いていて使い分けているな、偉いなと思ったと言う話。
そのアンケートで94%の人が今回の企画は楽しかったと答えていて驚異のパーセンテージだと言っていたが、そりゃあ聞きたい人が参加してるんですからそうですよと言ったところ、いや良いところに目を付けただの教育原理の話に結びつくだの、今日は異様に褒めてくれる。
そして終いには教えてないのに私から教わったと言い張る茶色のおっさんヘドバンを実際に見せて、そして着けてくれた。
「いやそれどういう付け方」
と突っ込みながら笑っていると
「、、、もう!いいよ!」
と、ぽくない同級生のような茶番をしてくれた。
面白おかしくヘドバンを付ける様、え!、と目を大きくして驚く姿、普段見られなくて いとをかし。
やっぱり夜型なのかな。
いつも私と誰か友達がいる時の会話はとても盛り上がる。
私と先生だけだとどうしても私が意識してしまうのだろうか。
仲介人がいないとだめかもしれないね。
話が終わって、水筒を洗ってきますという先生。
「あっちじゃなくてこっちで洗うんだけどね」
「いやどっちでも良いです」
私は突っ込むのが好きなのかもしれない。
さっきまでのどんよりとした気持ちが少し回復した。
コーヒーを飲んで帰ろうかなと考えてた。
どうしようかな。
するとまたやってきた。
フィーバーだ。
「あ、まだいる」
「なんですか」
本当はまた話しかけてもらえて嬉しいところ、嫌そうに答えた。
なんと、ここから一緒に帰ることとなった。
一人の帰路、友達との帰路、何度このことを夢見たことか。
そこで気になる先生の大学卒業後の進路などについて聞いてみた。
帰路はほぼ全部先生の人生についての話だった。
「しかしここで俺は....」
完全に自分史の、講義だった。
ちなみに先生はフランクに話す時だけ一人称が 俺 だ。
自分でも気がついていないだろう、ふふ。
とにかく要約すると先生は学者になろうとしてなったわけではないということだった。
自分がなりたいものにストレートにならなくてもいいんじゃないか、そんな気がした。
いつも時間配分を誤る先生、今回も帰路と少しの立ち話で先生の話が幕を閉じた。
「質問はないですね」
「いや、ありますけど次回に回しましょ...」
「良い眼鏡ですね、、素敵です」
、、、いきなり褒めないでくれ。
自分が髪を切ったとわざわざ言う時は言葉にしないで含蓄のある笑顔をして、こういう時にいきなり言ってくるのだ。
ミスター・グレーゾニストよ。
それでお別れをした。
いつもなら4階でさよならだったのが、今は駅でお別れをしているではないか!
最後の最後の言葉まで含め、全部がただ楽しかった。
一緒に歩いている時はいつもと違ってそわそわして歩いていた。
心臓のおかしい動きが伝わって、なのか。
別に目で追っていたわけではないが、電車に座るところをたまたま見た。
はぁよいしょ、みたいな感じ。
あの人も自分と同じでもしかしたら外では格好つけていないと居られない人なのかもしれない。
自分が乗った電車、向かいの男の人が先生に似てる。
目を丸くして見てしまった。
まぁ世界には自分と似てる人が3人はいると言うし。
そんな呑気なことも考えられるようになった。
1時間前は世界の物事が全て上手くいかないと嘆いていた自分だのに、簡単だな、いやあの人のパワーが凄いんだな、いや自分がただあの人をエネルギー源にしているだけ?
夜想曲、と検索して手当たり次第聴いてみた。
やっぱりショパンかな。
クラシックは聴きたい雰囲気で検索を掛けられるから良い。
あ、そういえば自分の誕生日の時に言ってくれた "今度おすすめの日本酒でも教えます" を今度聞かなきゃな。
信号が青になる。
夜風が気持ちいい。
やっぱり卒業次はただただ大きな感謝を伝えようかな。