nekoyanagi0777’s diary

僕の/私の 脳内メモリー

2023年10月

○2023年10月27日

 

退勤の電車で、先生から借りた小説を読むのが心地良いです。

スマホでドラマを見ている時より、窓の外を見ている時なんかより、

随分豊かな気持ちになれます。

自分で選んだ本では味わえない、特別なものを味わえるのです。

最近、いよいよ仕事に慣れてきました。

慣れてきた、と言う日がとうとう来ました。

「その日が来た」は、俯瞰した視点を持ち合わせないといけない合図です。

慣れてはきた、しかしきっとまだ知らないことばかりですけど。

ところで、先生はなんでこの本を私に勧めたのですか?

編集を考えてほしかったから?自分のバイブルだったから?

先生がおすすめする本は、どこかものがなしいです。

私の知らないことの方が、先生には多いに決まっていますね。

あれだけ暑い暑いと言っていたのに、世の中はもうすっかり肌寒くなってきました。

研究室のエアコンも、きっとこの気温では要りませんね。

この間、初めて行った神保町。

本嫌いの私が行くはずのないところです。

今の私にとって、神保町は居心地の良い場所となりました。

中国の本屋があったり、専門書の本屋があったり、古本屋なんてのはそこいらじゅうにあります。

先生とあのカフェに寄ってみたかった、神が阻みました。

初めて企画して創る、最初の一冊は、自分にとって特別なものになります。

それは、先生の前に出しても恥ずかしくない一冊でありたい。

こうやって浪漫を求めて、何を作ろうかと苦しむのです。

先生がいなかったら、私はきっとすぐ思いついた企画を出していたでしょう。

そうではいけないなと、その本に何かしらの意味を持たせたいのです。

勇気を出してもらった薬は、じわじわと底をついてきました。

いくらか試しに飲んでみたのです。

やっぱり効果はありました。

本番は来ませんが。

アザラシはいつもこちらを見ています。

しかし効力が弱くなっている。

もうすっかり自分のロッカーに馴染んできてしまったのです。

もっと異質でいなくてはいけないのに、自分も。

最近、2回ほど先生を誘うメッセージを送りました。

あまり色いい返事ではなかった。

たまたまですか?私の存在が薄くなっていますか?

私が貸したモモも、覚えていないですか。

あれだけ大切に読まずにいた、先生から貸してもらった小説を、

とうとう最近読み始めてしまいました。

モモの感想を聞くまで、読むまいと思っていたのに。

この本を返したら、最後になりますか?

 

忙しさが敵ですか?

他のものが敵ですか?

それとも、時間の経過とその他もろもろの諸事情によって、自然に薄れた結果がこれですか。

これが物事の自然の流れですか。

 

 

○20231031

 

先生から貸してもらった本を読んでいる時だけは、安らかでいられた。

 

そう思った今日の朝。

もう、これでいい、穏やかに、先生から借りた本を読む、次の本が現れなかった時は、先生が出した本を読めばいい、そうやって、細く先生の面影を感じる本たちを読んでいればいいと。

そう、清々しい朝に思っていました。

 

それは、忙しなく校正作業をして、お昼になる前だった。

「今日大崎行こうか考え中」

と、先生から急にメッセージが来たのだ。

メッセージを見た瞬間、会社で嬉しさが止まらずにやけてしまった。

 

「17:30には仕事終わらせようと思ってます」と素っ気なく返したが、僕は確実にそわそわしていた。

しかしそれは想定済み、お昼はいつもよりゆっくりとしながら、食べられた。

大丈夫、僕には薬がある、ついに、これを試す時がきたのだ。

17時くらいを回ると、そろそろお腹がそわそわしはじめ、変な汗が出たり、急に熱っぽくなった。

しかし僕は、薬を飲めばそれが和らぐことを知っている。

この薬による僕の守備範囲の広がりによって、今までの、長い闘いが終わろうとしている。

18時を少し過ぎたくらいに、会社を出た。

薬を飲んだからか、少し眠気がある、効いている証拠だ、安心する。

 

大崎のスタバにいく途中、僕は本当にこれから先生と会うんだろうかと疑う気さえしていた。

それくらい薬の効きは良く、まるで雲の上を歩いているかのようだった。

先にスタバに着くと僕はコーヒーを頼みにカウンターに行った。

いつも食べるワッフルがあった。

どうだろう、しかし今日は今までと違うと思い、ワッフルも頼んだ。

コーヒーをテーブルに置くと、そろそろ先生が来る時間だった。

見渡すと、先生らしき人がいた、僕の前を通ったのにきょろきょろしながら僕を探している。

僕はしばらくその様子を見ていた。

目を凝らす先生。

こちらを向いた時、僕は手招きをした、少しあざとかったか。

しかしそんなことも意図的に出来てしまうくらい、今日の僕はほぼ無敵だった。

席に着くと先生はラテらしきものを頼んだ。

僕はワッフルを食べながら、思いついた話をしていく。

先生は相変わらずあまり話さず、僕の話に首をつっこんできた。

今度出したい本の企画を話したり、どんな戦略にすれば良いのか考えたり、この間読んだ教育の論文をまとめた本の話をしたり。

そこで先生は当時の講義でやった哲学者の名前や理論を出しては、僕の話と紐付けて解説をした。

「覚えてますそれ!〜〜のやつですよね」「そう、あれはつまり…」『○○!』二人の声が重なった。

そこで僕はまた、自分すごすぎると自画自賛をして、先生はひいては自分がすごいということなんですと二人で笑い合った。

前より大分積極的に、平常心を保って先生と話ができた。

 

あの頃の感覚を思い出す。

いまかいまかと先生を待っていた4階。

空腹を感じないまま過ごしたあの時。

無音の研究室で静かな、しかし強烈な緊張感が身体を走った感覚。

小説棚を一緒に見たあの甘い瞬間。

 

今日の会合は、いつになく清々しかった、ただただ楽しい時間を過ごせた。

何の不快感もなく。

「あれ、3ヶ月も会ってなかったけ、もうちょっと会ってた気がしてた」と言う先生。

「夢の中で会ってたのかもしれないですね」

そんな返しもできるくらいには、気分が落ち着いていた。

「次は日本酒飲まないとですね」

先生は、前回僕が飲みたいと言っていた日本酒のことについて言及した。

「ふふ、そうですね」

こうやって急にLINEをしてくれればそれでいい。

気が向いたら、僕と勉強をするなり、なんなりしてくれればそれでいい。

今回は、それがあちらからあったからか、薬の効能を調べられたからか、今後への不安はあんまり残っていなかった。

僕は、surviveできたんですかね。

先生は僕をsurviveしてくれたのですか。

 

帰りますか?と僕が言うと、帰っちゃうんですか、寂しいじゃないですかーと言ってきた。

多分寂しいんだと思う、一人暮らしだし、先生は人間と会ったらきっと人懐っこく話すんだと思う。

全然、一人が好きなんてことないんだと思う。

 

そこから1時間、やはり色んな話をして、僕たちは帰った。

先生は山手線だからあっちですね。

僕を見る先生。

僕も頑張って先生を見る、そしてやっぱりたまらなくなって「なんですか」と笑ってしまった。

「まぁまたすぐ会えます」と僕は言って、「がんばってね」と先生は言った。

僕は今までお辞儀をして別れていたのに、今回は手を振って別れを告げた。

少しでも僕のことをかわいいところがあるなと思ってくれれば、弟子は嬉しいです。

あわよくば特別な存在として、あの卒業時に思っていた感覚と同じで。

 

電車の中。

僕は、さっき返した本を思い出す。

数ヶ月に一回のペースでも、会えたらそれでいい。

僕は、その本の、ある1ページを思い出す。

付かず離れずがきっと良い。

僕は、そのページの中の、ある一節を思い出す。

もっと先生と一緒にいたいと思ったとしても、いたずらに笑いながら僕は言うだろう。

「基本線を崩さないままで」