nekoyanagi0777’s diary

僕の/私の 脳内メモリー

4年間夢見た時間は

4年間夢見た時間だった。

僕は大学卒業後、やっと先生と二人で食事をするという機会を作った。

やっと、だった。

 

ここからは僕の心身の問題、そしてその他複合的な諸問題が綴られる、今の僕そのものであるから。

まず、とにかく、今日はお腹の調子が悪かった、僕はいつもそういう日が近くなるとそうだ。

僕は半分、今日は満足に食べられないだろうこと、胸が詰まるような感覚が起きるであろうと覚悟した、だって今日のお昼はパン一つでやり過ごしてしまった、やり過ごすしかなかったから、健康的な食欲が出ないのである。

今日の研修のグループワークでは、身も心もやられてしまった。

そして、早めに着くといつもそわそわしてまた身体を悪くしてしまうので、ぎりぎりで横浜に着くよう考えた。

すると先生は大分早く着いてしまったらしく、横浜をぶらぶらしておくと言った。

着いた僕は「○○橋にいます」と連絡すると、先生は「ぶらぶらしたら迷いました」と言って少し遅れて来た、迷ったんですね面白い。

 

先生の登場シーンはどんなだっただろうか、やぁやぁ遅れました、といったように手刀を切っていた。あ、きたきた と思って見ていた。

いつものボーダーのスウェットみたいなのに、紺色のジャケットを羽織っていて、斜めがけのバッグを片側の肩にかけていた。

僕らは横浜で待ち合わされた。

 

僕を見るなり、「お、なんか大人って感じですね」と言ってきた。

「ふふそうですか?でも中身はぴよぴよですよ」と、いつも通りに話せたことを密かに喜んでいると、「知ってます」といつも通りに返された、嬉しかった、急に遠く遠くに行ったわけではない、僕が先生と過ごした日々は事実として確かに存在するのだ、本当にいつも通りだった。

 

最初はなにを話せばいいのか、とにかく使い勝手の良い「疲れた」を歩きながら連呼していた気がする、エレベーターに乗って、席に案内された。

 

テーブルに着くと、僕的にはそれは戦闘開始の合図になる、こんな心待ちで食事をしたくはないんだが、異性との食事はそうなってしまう、幾分良くなったはずだが基本の心持ちはあの高校から変わっていなかった。

 

「何飲みますか?」

僕は今先生とそんな言葉を交わしている、そんな状況がいよいよ現実になったことに驚きを感じていた。

先生は最初にスパークリングワインを、僕は赤ワインを頼んだ、「じゃあとりあえずお疲れ様です」とグラスが鳴った。

とりあえずサラダ頼みますか、と僕はとにかくそんなものを頼んだ。

先生は「お腹すいてるんでね、頼みますよー」と、小麦は今控えてるんだとか、今は生の魚が食べたいだとか話しながらメニューを見ていた。

この時点で分かる、僕は緊張している、なにも入らない気がする、それでももう既に、来られて良かったという気持ちだけはある。

 

僕は、「なんか酔わないと話せないですね」と明らかに緊張している自分に言い聞かせるように話した。

「鍵が外れないと話せませんか」と先生は笑っていた。

「そういえば、なんて呼べば良いですか、先生ですか?」と僕は気を利かせて話した。

すると、「ああそうだね。まぁ○○でいいよ」と僕がいつも愛称として呼んでいるもので良いと返って来たので、遠慮なく使わせてもらった、くすぐったい気がした。

そのあと、僕はとにかくこの2週間について3/31から話し始めた。

こんなことがあって、こんなことを言われて、こんな雰囲気で....とにかく話した。

先生はピクルスが結構酸っぱいだの言いながら話を聞いていた。

その流れで、「今まで研修で、効率効率って言われてて、それに対して違和感を覚えていたって話したじゃないですか。でもあれって、学生目線でのただの反発だったんじゃないかと思ったんですよ。すぐ慣れるんじゃないかなと思ったりしたんです。でもそれに100%染まっちゃいけない気がするとも思ってるんですけど」というような旨のことを話した。

すると先生は、「エリート的と非エリート的」という話をした。

「エリートの条件って、待てることなんですよ」と続ける先生は、エリートなら雑務でも、たとえコピーでも待って自分で作業する。

しかし非エリートは雑務を下っ端に全て任せると。そして先生はそれを奴隷的だと言った。

繰り返す歴史のように、お金を使って全てを奴隷に任せれば良いんじゃないですか、というわけだった。

上に登る人になるには、前者のエリートでないといけない。

しかし研修だから、社会人の基本的なところを教えろときっと上層部から言われているはずだ適当にやれと言われた。

 

今まで自分は如何に一つの物事に時間がかかるかを学んできたから、この効率化の波に違和感を覚えるのはある意味当然であったということですね、と話したら先生は頷いた。

 

それから、「友達と教え子はサバイバル」だということについて話した。

今残る先生の友達は互いにサバイブされてきた人たちなのだと、そして教え子もそうで今でも東京来る時に連絡をしてくれる人が2人くらいはいると。

僕は教え子であるという事実は変わらないが、そのほかに自分で規定することを望む。

 

「あなた全然食べてないでしょう」

「なんか今日は...」

僕には理由がある。

 

それから、「恋人は逆にサバイブ出来るようにこちらから働きかけること」、自分は結婚についてどう思ってるか聞かれた時、結婚って諦めだって恩師から聞きました僕もそう思いますと言うと「制度とか整って契約を結ばなくていいことになると結婚っていよいよ意味をなさなくなるよね」という話、世界には今の好きな人より好きになるだろう人がきっと多分いるのに契約を結ぶなんて出来ませんと話すと、「先生が大学の時、付き合っている人がいるのに他の人に目移りをして結局告白して振られたから寄りを戻した」といったおもろい話も聞いた。

 

 

「なんか良いなと思う人とデートとか食事行くとなんかいっぱいいっぱいになりません??」

「いや僕はなりませんけど」

「えぇ。だから、そういう人とは数ヶ月にいっぺんくらいで丁度良いんです」

「フットワーク軽そうに見えるけどね、中学の恩師誘ったり、この会なんかもまさにね」

「いやそれは....その....だからこの、先生との会は3ヶ月に一回が丁度良いんですよ、わかりますか?」

「......?え?ん?分からないです笑笑どういうことですか笑笑」

そう困ったように笑った先生。

この時、自分はもしかしてやってしまったのかと思った、きっとやってしまったんだと今思い返しても思う。

「そう...なんですよ、そうなんですよねぇ」

過ちかけたことに気づいた僕は、懸命に軽く流した。

 

「先生は友達とお笑い見に行ったことないんですか?お笑い好きなのに」

「ないね」と笑う、せんせい。

色んなことを話した、良い時間であったことに疑いはない。

ラストオーダーですが、と言われて、目の前に横たわる食べかけのピザを見て店を出た。

 

割と綺麗めな方の横浜駅に設置されているサイネージの前で、二人は止まった。

「お笑いでもなんでも良いんでまたどうぞ」そう言った先生。ニコニコで返答したと思う。

「3ヶ月に一回くらいじゃないと、いっぱいいっぱいになるんだったよね?」絶対に意味を含んだ笑みを浮かべながら、先生は聞いて来た。僕はなんと言ったら良いのか、「んーーー」と体感30秒悩んだ。「今このサイネージ広告の人と同じような顔してましたよ」やめてください、と明らかにいじられた。

 

サイネージから離れ、改札まで一緒ですねと共に歩いた。

別れる前に、事前に用意しておいた手紙を渡した。あんまり酔っていないのでこのことはしっかり覚えていた、けどさも今思い出したかのように「あそうそう」といってポケットから手紙取り出した。

「今見ちゃいけないんですね」

「んー今見ると私が困ります」

「なるほど笑じゃあまた3ヶ月後かに...」

「いや、1時間後かもしれません。」

そう言って別れた。

頑張るんだよと諭されているような「頑張ってね」をもらい、僕はお礼を言った。

 

別れた後、電車に乗ろうとしたらLINEの追加通知が来て、スタンプが送られた。

それを見た瞬間、「1時間後というより、数分後だった」と笑みを浮かべ、それを今日の締めとした。