今日も僕は、この前に引き続き、日本史を教えてもらっていた。
六時を少し過ぎると、丁度範囲を終えた。
「終わったーお腹空いたー」
お腹が空いたことを報告した。
「私もー」
それを聞いた僕は、咄嗟にこんな誘いをした。
「なんか少し食べない?」
2年間、大した恋愛経験も無かった僕が、今お茶のお誘いをしたのだ。
たとえそれがちょっとしたお茶でも、僕にとっては大変勇気のいることだった。
僕らは寒空の下、学校のテリトリー外をゆく。
どこかファストなレストランかなんかでハーフティラミスでも食べようとしていたが、学校からの距離が中途半端だった為、すぐ近くのスーパーでお菓子や飲み物をイートインすることとした。
結局、そんな簡素なものになってしまったが、僕にとっては大きな一歩だ、そうだそうだ。
1時間ほどだろうか、一緒に話をした。
僕の話がほとんどだったが、とにかく今までにないくらい沢山話した。
君の一つ一つの仕草が近かった、目の動きや発する声、あの笑顔、それらがあの時間では全てが僕のものだった。
同時に、それらに反応するのは自分しかいない為、息の詰まるのは違いなかったが、それよりも大きい幸福感が、こんなの久しぶりな僕を包んで、耳元で囁く。
一緒にならない手は無い、と。
でも僕の過去のかさぶたはそんなんじゃあ剥がれないほど手強いものだった。
一緒になった後の恐怖を僕は知っている、知っているのだ。
辛いことなんか山ほどある、他人のままの方が良かったと思うことだってある、君の悪いところだって沢山出てくるだろう、無論僕のものもだ、君と僕を引き裂こうとする得体の知れない何かが襲うことだって、そりゃああるだろうさ、そんなの屁でもないくらい沢山のことが僕らを待っているんだよ。
それを僕と君で乗り越えていける自信がない、僕はそれらと戦い切れない。
スーパーを出ると寒い冬だから手が冷える。
手冷たい、と僕が手を出すと君は僕の手を包んだ。
温かかった。
こんなのいつぶりだろうな、その人肌の温もりについ甘えそうになった。
これを何回繰り返しただろうか、僕は無意識に手を差し出していたのかな、バカップルみたいだな、恥ずかしいよ。
そういえば僕がバカップルは嫌いだと、過去の話も交えて熱心に話すと君は笑っていたね。
笑い話に変えてくれる、君だよ。
また来週ってバスが出た、僕だけの君はそこですぐ消えた。
楽しいと感じる度に何かが僕を襲うんだよ。
"またこうやって話そうよ!"
そうやって無邪気に誘う君に、僕は自分が誘ったために種をまいてしまったのだろうかと、遅いと思われる制御を掛ける。
"気分によるぞ"
僕はすっかり使い勝手の良い"気分"に頼り切ってしまっている。
こんな僕なのに、君はもっと無邪気に言うよ。
"合わせるわー"
僕の怖いくらいの"気分"に振り回されても良いのか、彼女。
こんな僕なんだ、他人のままで十二分では無いのか。
だが僕も少し素直になろう、この刹那だけは。
心が幸福感で溢れているようだよ。
彼女、怖いよ、君の魅力が。
僕は君の思うような人じゃない、なんせ戦い切れないんだ。
覚悟ができなくて、弱くて、何につけ"気分"を頼りにする、そんな気ままな奴は愛する人を作っちゃいけないって、そんな悲劇のヒーローで居させてくれよ。
愛と悲劇の狭間でくすぶるから。