僕の受験日が明日に迫っているというのに、彼女は大した言葉を掛けなかった。
いつも通りに時間が流れるよ。
僕の担任の現代文に始まり、僕の嫌いな日本史Bで終わる4時間。
5.6時間目の応用英語は明日に専念するため早退届けを出した。
と言いつつも、5時間目、僕はお世話になった図書室の先生のところにこそこそと行く予定。
お昼を食べた後、3階に行こうとするRちゃん。
「ねぇ、途中まで行こう」
気がつくと話しかけてた。
少しの刹那二人で歩きたかったんだよ、なんせ受験前日だから、さ。
「明日なんだねー」
彼女は先に話を切り出してくれた。
図書室までの道のり、安心したよ、彼女、ありがとう。
図書室に着く。
図書室では先生と、明日のことからこれまでのことなど、色々話をした。
落ち着いたよ、先生、ありがとう。
家に帰ろうとした僕は友達から聞いた、"担任の先生がなんか呼んでたよ"を思い出した。
ゆっくりと西棟に行こうとする僕、なんせSちゃんからまだ激励の言葉が無いのだから。
何事もなく西棟に到着。
"トントン、失礼します"
面接練習かのように僕は担任の先生のいる部屋へ。
"僕のことお呼びしなかったですか"
いや頑張ってねってだけだよ、と照れ臭そうに言う先生。
なんだ、先生も可愛いところがあるじゃないか、なんだか嬉しいな、と男ながらに思う。
僕も少し照れ臭そうに頑張りますと返す。
ありがとう、見直したよ、担任の先生。
今度こそ家に帰ろうとすると、もっとスピードが遅くなる。
呼び止めても良いんだぜ、僕はもう帰っちゃうんだぜって身体全体で表現してる。
彼女がまだいるかさえも分からないのに、意味の無いかもしれない踠きを、ラストのチャンスにかける。
あれはラウンジを通った時だろうか。
声がした。
男と女の声が。
その沢山の声の中あの声を探してみる。
"これは、この声は、彼女。"
あぁ、紛れもない彼女だった。
僕のことなんて気にしてないみたいだった。
あぁ、その声は彼女だった。
きっと何を感じるも無くあの笑顔で笑ってるんだ、女と、他の男と。
外は雨が降っている。
雨の中傘を差さずに歩き出す、早めのスピードで。
"彼女、君なんかな、担任の先生以下だ"
雨が僕の瞼を撫でるよう、その雨を吸うのは地面だった。
こんなことしてたから受験当日に風邪引いたんだよなぁ。