憧れは憧れのままでいてほしい。
むしろ、憧れはそれでしかいられないと思う。
それ以上でもそれ以下でもないのだ。
あの人と良い仲になれば、言うことなすこと気を付けなければいけない生活が待っている気がする。
私は先生から見たら大勢いる中の、一学生。
しかしその一学生としていられて嬉しかったと、それを感じるまでだ。
本当に幸せでした。
先生の、一学生としていられて。
人生を変えた人は居ますよ、あの先生です。
でもそう言うのは恥ずかしいので、人生を変えたものとして、先生の授業を挙げます。
あの人の仕事がうまくいけばいくほど苦しくなる。
学生からの鋭い質問に四苦八苦してもらうほど現実が鋭く僕を突き刺すのだ。
熱心な学生がいたから話してただけ、熱心な学生がいたから話していただけ。
それが真理でも、いつまでたっても僕は飲み込めない。
仮に僕が鋭い質問を量産しても僕は所詮質問製造機でしか無いんだろうな。
僕を、ひとつのアイデンティティを、特別な存在として覚えてくれるなんてないんだろうな。
それらは全て鋭い質問と共に。
こんなにあの人の存在を特別なものにしているのに、聞こうと思えば聞ける質問を、あえてその道のプロに聞きに行く。あまのジャック。あの人には聞けない、自分に何かいらない制限を課している。
大学最寄駅の雑踏で、いつも気にしている。特に帰りはそうだ。ばったり会ったりしないかなと。しかし大体その期待は9割の確率で破られる。なのに懲りない。1割の確率で会えたことはあったが、その1割をまた期待する。それで良かった。懲りずに満足した。
あの人の誕生日に、あの人の住まいがある下北沢へ行った。もちろん一人で。あの人の行きつけらしいカフェでケーキセットを頼む。
「おめでとう」
心の中で思いながら平らげた。